白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第3章 ◯ 十段獲得 ●
日が傾きかけた頃、海王高校の図書室で星歌は、図書委員の仕事を黙々とこなしている。一緒に委員を担当しているのは、昨年度も同じクラスで仲良くしていた女子、ゆみだ。
下校の時間を知らせる鐘が鳴ると、机に座って自習をしていた生徒たちが続々と帰り始めた。全ての生徒が帰宅して、星歌と2人だけになったとき、ゆみが話しかけてきた。
「星歌って、やっぱり彼氏いたんだね」
「え?何のこと?」
ごまかすように言うが、声にわずかな震えが生じてしまう。
「だって、2人で手繋いでお花見デートしてるの見ちゃったんだもん。彼氏、年上でしょ?大学生?社会人?背が高くてイケメンだよね」
見られてたんだ、どうしよう…。そう思う星歌の動揺は端から見ても明らかである。
「ゆみちゃん、お願い、誰にも言わないで!」
「えー?そんなに恥ずかしがることないのに。でも、星歌がそう言うなら内緒にしておくよ」
両手を合わせて頼む星歌に、ゆみは笑って答えて話を続けた。
「じゃあ、話題を変えよう。ハッピー緒方ってネットで流行ってるみたいだけど、知ってる?私も詳しくは見てないんだけどね。イケメンの囲碁棋士がネタにされてるみたい」
そう言いながらゆみはスマホで検索をしている。やがて、画面を見るその目が丸くなる。
「え?この人、星歌の…?」
その言葉を聞きながら星歌は固まったように動けずにいる。
「…そういえば星歌って、囲碁関係のカフェでバイトしてるよね?」
「…うん…」
「…彼氏って…囲碁棋士?」
「…うん…」
「…ハッピー緒方?」
「ゆみちゃん、お願い、誰にも言わないで!」
星歌は先ほどと同じ言葉を繰り返す。ゆみは先ほどとは打って変わって神妙な表情になっている。
「…うん、分かった…。言えないよ、こんなこと」
「ありがとう…」
「…うん…。星歌、有名人の彼女なんだね、ビックリしちゃった…」
「囲碁って普段は地味なのに、変なことでバズっちゃったんだよ…」
「何かあったら相談してね、協力するから」
「うん、ありがとう」
2人だけの図書室で、ひそかに約束が交わされた放課後であった。