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【呪術廻戦】呪いの嫁入

第11章 それぞれの役割


恵くんの声で満たされていたはずの胸が、じわじわと冷たい恐怖に侵食されていく。


「ね? 近くにいいカフェあるからさ。ちょっと休もうよ」
「あの、だから人を待ってて……離して、っ」


掴まれた箇所が、嫌な熱を帯びて疼いた。

助けを求めて周囲を見渡しても、誰もが知らないフリをして足早に通り過ぎてしまう。


(……恵くん、助けて……っ)


声にならない悲鳴が喉の奥で震えた、その時。


「今の時代、そんな強引なナンパが通用すると思ってるんですか? 滑稽ですよ」


背後から響いたのは、低く、凛とした男性の声。

その声に驚いたのか、手の力が緩んだその隙に、私の前に別の男性がが割り込むようにして立った。


「んだよ、お前……関係ねーだろ」


男が忌々しげに毒づくが、彼は一切怯むことなく、スマートフォンの画面を目の前に掲げた。

そこには既に、『110』の数字が入力されている。


「これ以上この子に付き纏うなら警察を呼びますよ。録音もしてますが、続けますか?」


ひどく冷たいその視線と一切の隙がない正論に、男性は舌打ちを一つ残して、逃げるように人混みの中へと消えていった。

嵐が去った後のような静寂が、私の周りにふわりと流れる。


「……大丈夫? 怖かったね」


そう言って振り返った男性の、妙に真っ直ぐで力強い瞳に、私はようやく止まっていた呼吸を吐き出した。


「た、助かりました…っ」


慌てて深々と頭を下げると同時に、極限まで張り詰めていた足が、安堵で一気に脱力しそうになる。


「大したことないよ。……それより、顔色悪いね。大丈夫?」
「っ…」


心配そうに差し出された彼の手。

それを取ることに、私はなぜか強い躊躇いを覚えた。


さっきの人とは違う。


紳士的で、声も穏やかで、何より窮地を救ってくれた恩人だ。

それなのに──私の本能が、激しく警笛を鳴らしていた。
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