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天狐あやかし秘譚

第100章 雲散鳥没(うんさんちょうぼつ)


逃げ場も居場所もない。
辛い、辛い・・・とても・・・辛いよ・・・。

そんな事を考えているうちに、じわじわと薬が、身体に沁み込んできたみたいだ。

トクン、と心臓の鼓動を強く感じる。
身体が内側から熱くなる。

色が・・・変わった?

世界から、暖色系の色がなくなり、紫や青、藍色に染まっていく。
普段気づかなかったモノが、キラキラと輝いているように見えた。

わあ・・・きれい・・・。

音が、よく聞こえる。
キッチンで夕飯の準備をしている母親の立てている音
隣の部屋でゲームをしている弟の体を揺すっている様子
外を走る車の音
ううん、それだけじゃない
歩いている人の吐息まで聞こえてくるようだ・・・

すごい・・・すごいよ、これ・・・
まるで、自分が周囲の世界に溶け合って、ひとつになったみたい

一回目もすごかったけれども、これもすごい。
これも「当たり」だ。

ちらりと課題に目をやる。

なんだ・・・簡単そうじゃないか。

何でも、本当にどんなことでもできる気がした。机に向かって、シャーペンを走らせる。ものすごい集中できる。色の変わった世界。問題を目にした瞬間に答えが浮かんでくる。浮かんでくる回答を書くのに、手がついていかないほどだった。

英語があっという間に終わった。
そして、数学と化学
社会の課題も15分ほどでカタがついた。

最後は国語

あまり得意ではないが、これも同じだった。
目が縦から横にすらすらと動いていく。頭にスルスルと文章が入ってくる。問題文に当てはまる答えがまるで浮き上がって見えるかのようで、何の難しさも感じない。

すごい・・・!

これがあれば、受験も何も、怖くない。
母にも父にも何も言わせない!

もっと、もっと、私は私でいられる。

そのためには・・・

ぱたん、とテキストを閉じて、窓から外を見る。
昼間だと言うのに、薬の効果のせいで、薄闇に染まったように見える美しい町並みがそこにはあった。

そのためには、もっと、このお薬を貰わなきゃ。
そういえば言っていた・・・【お薬屋】が、言っていた。

『ぜひ、新しいモニターを紹介してください。そうしたら、もう一瓶プレゼントしますよ』
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