第96章 覆水不返(ふくすいふへん)
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誰かが何かを言っている。
でも、私にはしなければいけないことがある。
手にした玉、あの人はこれを死返玉と言っていた。
その死返玉を握りしめ、私は必死に祈っていた。
そして、祈りながら、思い出していた。
昔のことを。
お父さんと、お母さんが生きていた日のこと。
そして、あの、私からすべてを奪った、最悪の日のことを・・・。
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ピピピ・・・
脇の下に挟んでいた体温計が、電子音を上げ、測定の終わりを告げる。「どれ、見せてご覧」と、お母さんがそれを取り出して見た。
「うーん・・・やっぱりお熱あるわね。
しかも38度7分・・・お顔赤いからと思ったけど。お喉とか痛くないの?」
正直言って、昨日の夜から体調は悪かった。頭は痛かったし、喉も違和感があった。今朝起きた時は息をするだけでも何度も咳をしそうなったし、体もだるくてあちこち関節が痛い。身体はぼやっと火照っていて、とても健康だとは思えなかった。
でも、私は我慢をしていた。だって・・・だって・・・
今日から家族みんなで旅行するってなっていたから。
お父さん、お母さん、おばあちゃん、おじいちゃん、それからお兄ちゃんと猫のミーも一緒。本当はお父さんがお仕事納めの日か、その次の日からの旅行を計画していたのだけど、お宿が取れなかったから、仕方なく1月1日の午後からの宿泊をすることになっていた。
行き先は私も大好きなスキー場。
温泉もついているので、おじいちゃんやおばあちゃんも楽しみにしていたし、ペット同伴可能だったからミーも一緒の部屋にお泊りできる。お兄ちゃんはゲームセンターでいっぱい遊ぶんだと張り切っていた。
「麻衣ちゃんだけ置いていくわけにいかないしねぇ」
お母さんが言うと、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さんも優しく頷く。確かに、みんなが遊びに行って私だけお留守番、っていうのは嫌だった。でも、みんなも楽しみにしていたのに、私のせいで行かれないのはもっと嫌だった。
「また、予定を変えていけばええて」
おじいちゃんが言う。お父さんも、それに賛同していた。
お兄ちゃんは若干ふくれっ面をしていたけれども、お母さんが「家でゲームいっぱいやっていいから」と言うと、ころっと機嫌が良くなった。
ミーは私の横でうーんとノビをしていた。
「ごめんなさい」
