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天狐あやかし秘譚

第96章 覆水不返(ふくすいふへん)


休日診療のお医者さんの診察を受けたところ、インフルエンザなのが分かった。なので私はひとりのお部屋でマスクをして寝てることになる。お母さんが急遽作ってくれたおかゆや近所の人から分けてもらったおせちを少し食べて、もらったお薬を飲んで寝ていた。身体がふわふわしていて、すごくだるくて、疲れやすかった。やっぱり寝ていられるのは楽だった。

「麻衣ちゃん、大丈夫?」
お母さんが額に冷たく絞ったタオルを置いてくれる。すーっと体が冷えていくような、良い気持ちがした。私は、うん、とひとつ頷いた。

「じゃあね、寝てなね?」
「麻衣、早く治して、大牧に行こう」
お父さんも襖から顔を出して言う。大牧とは『大牧スパ』のことで、大きなお風呂やマンガスペースがある施設だった。
私は、お父さんに向かっても、うん、と大きく頷いた。

これが、二人と話した、最後の会話だった。

午後4時10分

寝ていた私は恐ろしい地響きの音で目が覚めた。
それはゴゴゴゴと、まるで地獄の底から響いてくるような、今までに聞いたことがない音だった。

何!?

思った瞬間、ビーユン、ビーユン、ビーユンという聞き慣れない電子音があちこちから響く。異様な雰囲気があたりを包んだかと思った刹那、ドン!と突き上げるような振動とともに、大きく家が、いや、空間そのものが揺れ動いた。

「きゃああ!!」

慌てて布団に潜り込んだ。ガラガラと何かが落ちる音、誰かの悲鳴、ガラスが割れる音、金属がひしゃげる音、うめき声、バラバラと布団の上に何かが落ちてきて、ドンと身体が強く圧迫された。

私が覚えていたのは、ここまでだった。

私達の家を襲ったのは、後に『能登半島地震』と呼ばれる大地震。そして、私の家の付近は最も被害が大きい地域のひとつだった。

タンスが私の体の上に斜めに覆いかぶさっていたことで、私は倒壊した屋根に押しつぶされずに済んだらしかった。しかし、家族はみんな・・・

猫のミーは見つからなかったらしいけれども、多分死んでしまったと思う。

私がもし、お熱を出さなかったら。
みんな、地震に遭わなかった。

みんな、死ななかった。
みんな・・・今でも、笑っていた。

ごめんさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

助けるから・・・麻衣が、麻衣が助けるから。
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