第93章 怪力乱神(かいりきらんしん)
反閇とは邪気を払う特殊な歩法を含む儀式のことである。それを行うことで、凶事を吉事に変換したり、妖魅の類を払ったりする効果がある。それは、もともと結界や邪気払いを専門とする祭部衆にとっては必修科目のひとつであり、当然、九条も反閇法は修めていた。
左前が水公結界の呪言を唱える中、九条が北斗七星に二星を加えた九星の配置に沿って歩を進めつつ、呪言を奏上する。
「九道閉塞
我を追う者は極みへと退けよ
車為す者はその車軸が折れよ
馬為す者は目を闇くせよ
歩きたる者は踵を挫け
兵を挙げたる者は悉く伏せ
明星 北斗 此の敵を却せよ
牽星 織星 海となせ川となせ
急ぎ急ぎて律令のごとく・・・」
タン、と最後の一星を踏み、麒麟に向かい素早く九字を切った。
「行為せよ!」
歩法によって地に描かれた九星が光を放ち、周囲に波紋を広げていく。同時に左前が放った水の剣が麒麟とそれに乗ったクチナワを取り囲むように地に刺さった。
「何だ!」
クチナワが声を上げる。一瞬動揺をした様子だが、麒麟自体にダメージがないと分かるとホッとしたのか、ぽんとその腹を蹴って指示を出した。
「麒麟よ、この妙な術を打ち払え!」
麒麟は神獣である。クチナワが使える妖魅の中でも最も位が高いものと言ってもいい。そんじょそこらの術は効かないはずだという自負が彼にはあった。
麒麟は首を挙げ、一声いななくと、周囲を見渡した。地からは反閇の光、周囲には水の檻。どうにもここは居心地が良くない、そう感じていた。最も結界の弱いところを突いて、ここは一旦外に出よう。
それが麒麟の下した結論だった。
甲高い声をもう一声上げ、麒麟が結界内で最も弱い部分に自身の角を突き立てる。土気を有するその角の前に、あっさりと左前の水の剣は軽い音を立て砕け散った。
ーこれで、自由だ・・・
麒麟はそこから結界を出ようとする。ちょうど、反閇を仕掛けている術者とも距離が取れて好都合だ・・・、そう考えた。
トン、と軽く地面を蹴り、水の檻を飛び出した、が、その時・・・
「うわ!何だこの蝶は!」
そこには光り輝く何百という蝶が舞い狂っていた。
「ビンゴ、なのです!」