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天狐あやかし秘譚

第93章 怪力乱神(かいりきらんしん)


舞い踊る蝶は言わずと知れた土門の式神『夜魂蝶』である。土門は、反閇に追われた麒麟が、円形に張った結界の最も弱い部分『鬼門』から出ることを予期していたのである。そしてそこに、大量の夜魂蝶を仕掛けていたのだ。

大量の夜魂蝶に取り囲まれ、背に乗った主が困惑する中、麒麟は意外と冷静だった。冷静に土門の声を聞き取っていた。

ー呪力のこもった女の声がする・・・。
 次に、何が起こる?

そう考え、麒麟は咄嗟に角を立てた。麒麟の霊角は、未来視を可能にするからだ。しかし、いつもなら、数秒先の未来が見えるはずなのに、今は角から何の情報も流れ込んでこない。

麒麟には知る由もなかったが、それは土門の夜魂蝶の持つ『撹乱』の性質にほかならなかった。撹乱を受けた麒麟は戸惑い、その歩みを止めてしまう。

神獣の生命のひとつである素早さが、死んだ瞬間だった。

「木気・月門雷光槍!」

その隙も土門の狙い通りだった。夜魂蝶に囲まれた麒麟めがけて、ドンと天から退魔の槍のごとく雷が降る。紫電の槍は刹那の時間でクチナワを貫き、それが乗る麒麟を大地に串刺しにした。

キイィイイイイイイイイッ!

甲高い声を上げ、神獣・麒麟が霧消する。そして、麒麟が消えるほどのダメージであった割には、上に乗るクチナワ自身は少し服が焦げたぐらいで済んでいるのは、土門が放った術が、人体よりも妖魅に対して高い効果を持つものであったからにほかならない。

ーこいつはとりあえず生け捕りにするのです・・・

そういう考えが土門にあってこその術の選択だった。
おそらく『白辰大砲』を用いていればクチナワもろとも葬ることもできたかもしれないが、生け捕りを優先したのだった。

「いやった!」
九条が戦果に歓び、無邪気にパンと手を叩く。
「やりよった」
左前も声を上げるが、流石にベテランなだけあって、すぐさま白目をむいて膝立ちになっているクチナワに駆け寄っていった。早く神宝を取り上げ、拘束せねば、と思ったからだ。

しかし、その左前すら、とにかく、これで戦況が大きく傾いた、と少し肩の力を抜いていたところだった。
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