第11章 密事
「わかった。精進しておこう」
ぐいと鬼鮫を見上げた小枯の耳も顔も赤い。
「いいですねぇ」
言いながら鬼鮫は小枯の赤い耳を指に挟んで軽く捻り、目の下の隈を撫でた。
「返り討ちされたあなたを見るのが楽しみだ」
「誰が返り討ちされるものかよ。覚えておけ、鬼鮫」
「忘れるわけがない」
初めて触れたあなたを。
唇の輪郭を親指の腹でなぞり、鬼鮫はふっと笑った。
「あなたも忘れられないでしょう?」
「…何だよ。意味ありげに言うなよ。思わせぶりは止せ。匂わせも止めろ。鬼鮫よ。お前はそういうタイプか…?そうなのか?…うぅ…付き合い辛いなぁ…」
「自分に正直で何か悪いですかね」
「待て。お前はどうか知らないが、私はこういう応酬に慣れてないんだ。自己防衛させろ」
「私だって慣れてる訳じゃありませんよ。言ったでしょう?正直なだけです」
「あちこちで正直だったんじゃないのかと疑いたくなる流暢さだ。感心しないぞ」
「ふ…あちこちで正直?あり得ませんよ」
鬼鮫は含み笑いして小枯を抱き直した。
あり得ないことだと、これからあなたは知っていく。私を知る程に。
裏切り、裏切られ、信じようとして信じきれず、また裏切り、裏切られる。
繰り返し繰り返し、絶望を味わい続けて何にも己を委ねられなくなったその果てにあなたと出会った私という男を、あなたはどう受け止めるだろう。
「しかしあなた、何もかも本当に初めてなんですかね?付き合い甲斐があっていいですねぇ」
「…物凄く嫌な感じだ鬼鮫。正直も程々にしないと明け透けになる」
「悪いことは言ってないでしょう?嬉しいんですよ、私は」
誰にも汚されないまま、傷付きながら生きてきたあなたを初めて抱き抱えるのが、他の誰でもない私であることが。
「…何だ何だ?胡乱だな。無闇に嬉しがるな。期待に応えられるとは限らないぞ?」
手を突っ張って鬼鮫から距離をとった小枯に鬼鮫は眉を上げた。
「ほう?ではあなたは口で言う程初ではない?」
「初だなんて言ってないしこの歳で初とか言われたくない!止めろ!こういう話はちょっとまだ早い。もう少しこう…こう…何だ?えー…と、時間薬?」
「…恋愛関係に時間薬が必要なほど病んでるんですか、あなた」
「…予防接種させろって言ってるんだよ」
「成る程。上手いこと言いますね」
