第11章 密事
うんと伸びをして、小枯は部屋を見回した。
「…懐かしいな。斎館と同じ造りだ」
感慨深げに呟いて格子窓の側へ立つ。
「里の大祭で社にご奉仕するときは斎館に寝泊まりした。霜刃や南天も一緒に。楽しかったな」
格子窓の木枠を撫で、天井を見上げ、首を傾げて小枯は不思議そうな顔をした。
「こんなに狭かったんだな。こうして見ると私も育ち上がったものだ」
「幾つになってそんなことを言ってるんです」
呆れ顔の鬼鮫に言われて、小枯は真顔で答えた。
「いい歳だから改めて思うんだよ。…こんな私になってしまって、何だか申し訳ないな…」
まだ何者でもなかった、無邪気で小さな小枯に、申し訳ない。
「何言ってるんですか。そんなことを考える自分を申し訳なく思いなさい」
「誰に?」
「私とあなた自身にですよ」
「お前にもか」
「何ですか、その顔は?何か不満でも?」
「何かしら癪に感じるのは何でだろうなぁ…」
「…それこそ癪に感じますねえ…」
「お互い癪に触ってちゃ世話ないな。お互い一発殴ってこの話は忘れよう」
「生憎私はそんなに単純に出来ちゃいないんですよ」
馬鹿なことを言うと苦笑いしながら頬をつねれば、小枯は眉を顰め、目を眇めながら何故か耳を赤くした。
「止せ。私とお前はひとつ違い、子供扱いされる筋合いはないぞ」
「なら子供みたようなことを言うのは止めなさい。あなたは誰に恥じることなく生きてきた。会って間もない私にさえそれがわかる。それは自覚すべきですよ」
「恥じることなく、か…」
「またそういう顔をする」
「どういう顔だよ。いちいち自分の顔のことなんか考えちゃいないからわからん。それよりこの手を離せ。いつまで人の顔をつねってる?話し辛いぞ」
「なら無理して話さなくていいですよ」
不意に鬼鮫が小枯に顔を寄せた。
唇が重なって小枯の目が大きく見開く。
痩せた身体を抱きすくめ、鬼鮫は深く小枯に口吻した。白い水干が身体の震えを受けて細かに揺れ動く。
「…続きはまた後日。"まだ"そこまでは出来ませんからね」
白の盤領に縁取られた浅黒い首筋に顔を埋め、鬼鮫は口角を上げた。その腕の中で小枯は、身を固めて俯いている。
「…次不意打ちしたら引っ叩くぞ」
「簡単に引っ叩かれはしませんよ。引っ叩きたいなら精々精進することです。"次"は必ず来ますからね」
