悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第7章 対象キャラ全員の心を掌握したい
「ふふっ……あなたの炎が頼もしかったからですわ。」
その言葉に、レオンが照れたように笑う。
「そっか。じゃあ、次も頼ってくれよな!」
照れくさそうに笑うレオンに、ヴァイオレットが頼もしそうに見上げる。
そんなふたりのやり取りを見て、3人の攻略男性の空気が凍りついた。
ルシアンは、ほんの一瞬だけ視線を伏せた。
そして、再びヴァイオレットを見つめる。
その瞳は、先ほどの微笑みとは違う、冷たい光を宿していた。
その瞳は、炎の騎士に肩を抱かれて笑うヴァイオレットを、静かに見つめていた。
(俺の氷に微笑んだあの顔と、同じだ)
焦燥。
嫉妬。
そして、理解不能な“痛み”。
彼は、魔力波動の乱れに気づいていた。
氷属性の魔力は、感情に左右されにくい。
それなのに、今──
(彼女の言葉ひとつで、俺の魔力が揺れる)
その事実が、彼の心を凍らせた。
そして、同時に──溶かし始めていた。
(これはただの“全体好感度アップイベント”のはずだ。
なのに、なにを俺は彼女にがっかりしてる)
その瞬間、神楽坂蓮の声が、彼の内面を代弁するように響いた。
「……君は、誰にでもそう言うのか?」
低く、静かで、鋭い。
けれど、その声には、わずかな震えがあった。
それは、演技ではない。
“感情”が、声に滲んだ瞬間だった。
──しおりは、その声に心臓を撃ち抜かれた。
(ちょ、ちょっと待って……今のセリフ、神楽坂蓮ボイスで!?
しかも、微かに震えてた……!?)
神楽坂蓮。
氷属性キャラを演じさせたら右に出る者はいない、演技の氷帝。
冷静沈着、完璧な抑揚、そして──
感情が揺れたときの“声の震え”が、ファンの心を焼き尽くす。
(今の「誰にでもそう言うのか?」、完全に“嫉妬の氷”だった……!
語彙力、死んだ。尊死。氷属性なのに、心が燃えた)
でも、令嬢としては微笑みを崩さない。
スカートの裾を整え、姿勢は保つ。
「いえ。あなたの氷は、特別ですわ」
その言葉に、ルシアンは何も言わなかった。
ただ、視線を逸らし、静かに息を吐いた。
(……馬鹿げている。俺は、感情に振り回されるような人間ではない)
けれど、彼の魔力は揺れていた。
氷の波動が、彼女の言葉に反応していた。
(俺は……彼女に、影響されている)