第2章 発現と出会いと喪失
20××年5月23日。
家に生まれた小さな女の子は、産声を上げた瞬間から“綺麗な子”だと言われた。
「可愛い……」
「目がきれいね」
「お利口そうな子だわ」
その言葉は、
が物心つく前からずっと向けられていたものだ
両親の愛情をいっぱいに受け、穏やかに育った
しかし、彼女には“眠っている力”があった
それが芽吹いたのは——3歳の冬。
あまりはっきりと覚えてはいないが、当時の私は、どうやら「助けたい」という気持ちがとても大きかったらしい。
きっかけは、日常の些細な出来事だった。
夜ご飯の準備をしていた母が、包丁で指を切った。
母の声に私はびっくりし、思わず駆け寄った。
「大丈夫よ〜。すぐ絆創膏貼るから。」
そう笑う母を前に、幼いは泣きそうな声で呟いた。
「……やだ、いたいの……やだ……!」
しかし、当時の私はまだ個性を使えず、ただ焦るばかりだった。
母は明るく笑って「大丈夫だよ~」と言っていたが、私の胸は不安でいっぱいだった。
(どうしよう……死んじゃうかもしれない……)
まだ小さな私には、あの傷がとても深刻なもののように思えた。
今思えば、あんな小さな切り傷で命が危険になるはずはないのに、なぜかその時は本当にそう思ってしまった。
必死に考えながら、私は母の手をそっと握り、切った部分に自分の小さな手を当てた。
すると、不思議なことが起きた――
母の傷に小さな手を当てると、ぽうっと光がにじむように広がり傷口に温かさが広がり、みるみるうちに小さくなっていく。
痛みもなく、ただ元の、綺麗な手がそこにあるだけだった。
「え……? これ、あなたが……?」
「なおれ……なおれ……!」
母は驚きながらも娘を抱きしめた。
「ありがとう。
は……ママのヒーローだね。」
その日、
は“初めて誰かを救った”。
母の笑顔と言葉に、私は初めて自分の力を実感した。
あの日の小さな奇跡は、単なる偶然かもしれない――でも、幼い私の心には確かに、誰かを守れる力が芽生えた瞬間として刻まれた。
その感覚は、
のちにの人生を決定づける“原点”だった