第3章 はじめましての訓練
真紅の翼を背に持つ少年――ホークス(当時12歳)が立っていた。
柔らかい笑顔。
しかしには、その鮮やかな翼も、知らない人の気配も、すべてが怖かった。
「……」
声が出ない。喉がひりつき、胸が苦しい。
襲撃の記憶がまだ焼け付いて、知らない人はすべて“敵”かもしれないと心が叫ぶ。
それを察したのか、ホークスはすぐには近づかなかった。
距離を取り、視線も合わせすぎず、の反応をじっと見守る。
「やぁ。初めまして」
彼の声は驚くほど柔らかかった。
羽ばたきのように軽やかで、無理やり近づこうとしない。
「オレ、ホークス。えっと……本名は別であるけど、呼びにくいだろ?
だからみんなそう呼んでる。君も、好きなように呼んでいいよ」
は小さく唇を噛む。
母の後ろで隠れていた時のように、身体がちぢこまり、声が震えた。
「……す…………です……」
自分の名前を言うだけで心臓が痛い。
息が苦しくなるほど緊張しているのが、ホークスにはすぐに伝わった。
「そっか。ちゃんか。いい名前だね」
彼は一歩だけ近づく。
でもその動きはとてもゆっくりで、が逃げないよう細心の注意を払っていた。
「怖くないよ。今日は挨拶だけ。無理しなくて大丈夫だからね」
その優しさに、少しだけの目の奥が熱くなる。
怖さと安心が混じり合って、胸がぎゅっと締め付けられた。
そして、公安委員長が部屋へ入り、二人を見渡す。