第3章 はじめましての訓練
家族を失ったあの日から、世界は静まり返ったように感じられた。
暗い車内に揺られながら、はぼんやりと窓の外を眺めていた。
街の光も人々の笑い声も、以前のように胸を温めてくれることはない。
隣では無言の公安職員がただ前を見つめ、車は静かに公安の施設へと向かっていた。
は幼いながらに理解していた。
――もう、家には帰れないことを。
公安の施設は冷たく、無機質で、まるで世界から隔離されたような場所だった。
柔らかな絨毯も家族の声もなく、風が吹き抜けるような静けさだけがある。
保護されて数日。
食事も睡眠も、職員たちは優しく気を使ってくれたが、の心は閉じたままだった。
そんなある日、職員が小さくノックし、部屋に声をかけた。
「ちゃん、人を紹介したい」
はベッドから顔を上げる。
理由もなく胸がざわつき、服の裾をぎゅっと握る。
ドアが開く。
赤い羽根がふわりと揺れ、光を反射してきらめく。
より頭ひとつ、いやふたつも背が高く、少年というより若いヒーローの卵という雰囲気。