第2章 発現と出会いと喪失
「すまない……遅れを取ってしまったのは、私たちヒーローの責任だ」
は振り向いた。そこに立つのは、先ほど敵を封じた男―ベストジーニストだった。
鋭くも温かい眼差し。今も緊張感を放ちながらも、守る姿勢は揺るがない。
「君が病むことではない」
彼の声は静かで落ち着き、しかしその一言は、の胸をわずかに緩ませた。
「言いにくいが……君の個性が効かなかったのは、まだ君は幼いからだ。個性は生まれ持った力だが、安定して発現するには時間が必要だ。今はまだ、上手く発現しなかっただけ……君が悪いわけではない」
は小さな身体を震わせたまま、目に涙をためて見上げる。
「でも……でも……ママもパパも……助けられなかった……」
ベストジーニストは静かに膝をつき、と目線を合わせた。
「君の個性は確かに強い力を持っている。だが、まだ使い慣れていない。今は無理に背負い込む必要はない。大切なのは、君自身が生きること。そして、学び、力を蓄えることだ」
は肩を震わせ、嗚咽を漏らす。胸の奥にまだ冷たい絶望が残る。しかしその言葉は、少しずつ小さな光となって心に差し込んでくる。
「……私……私、まだ……幼いから……?」
「そうだ」
彼は静かに頷く。「幼いがゆえに、君の力は不安定で、今はまだ完全に発揮できない。だが、それで君の価値が減るわけではない。君は十分に強い。恐怖や悲しみを抱えたままでも、君は生き抜ける」
は涙を拭い、震える声で小さくつぶやいた。
「……守りたい……もっと強くならなきゃ……」
ベストジーニストはの肩に手を置き、温かく包み込むように微笑む。
「その気持ちは必ず力になる。君は、守る力を持っている――いつか必ず、自分の大切な人も、世界の誰かも守れるようになる」
はその言葉を胸に刻み、まだ消えない悲しみと共に、ゆっくりと立ち上がる。
小さな背中に、恐怖と絶望を乗り越えた強さの片鱗が宿る。
その日、の心には、守る力を手に入れる決意と、ヒーローとして歩む未来への小さな光が生まれた――。
その日、の5歳の世界は終わりを告げた。
でも、守る力、誰かを想う力、そして「自分が強くならなければ」という決意が芽生えた瞬間でもあった。