【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第5章 A Heart Divided
––––そうでなければ、この目の前の仁美の笑顔が、壊れてしまう。
彼にとって、それは許しがたいものだから。
仁美がジュースを少し飲み終える頃。
黒尾はふと、彼女の顔にかかった髪に目を止めた。
汗と湿気で張りついた黒髪の一房が、仁美の頬にかかっている。
黒尾は何のためらいもなく、その髪に指を伸ばした。
柔らかい髪をすくい、耳にかける。
それは黒尾が仁美以外の誰にもしない仕草だった。
「……クロ。」
仁美が驚いたように小さく彼の名前を呼ぶ。
指先が触れた髪の感触が、黒尾の指に微かに残る。
そのまま、2人は言葉を失い––––。
ただ見つめ合った。
黒尾の目はやさしく、仁美の目はまっすぐだった。
まるでそこだけ時間が止まったように––––––。
研磨はその空気の中、無言で仁美の手元にあるジュースを取った。
「ちょっと。」
そう言って、残りを一口飲む。
研磨が触れたのは、さっき仁美の唇が触れたストロー。