【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第5章 A Heart Divided
仁美の隣には同級生の友達もいて、どうやら遊び帰りのようだった。
仁美は黒尾の手にあるカップに目を留めた。
「それ……駅前のキッチンカーのやつじゃん! ずっと気になってたんだよね!」
黒尾はほんの一瞬だけ目を瞬かせ、それから自然な調子で言った。
「飲む?」
差し出されたジュースに、仁美は驚いた顔をした。
「え、いいの? でも……。」
言いながらも、カップを受け取る指先が少しだけ震える。
ストローには、黒尾がすでに口をつけた跡。
仁美の頬がみるみる赤く染まっていく。
「……いただきます。」
小さくそう言って一口飲む仁美を、黒尾は黙って見ていた。
何も言わずに、ただその仕草を目で追っている。
その横顔に、ほんのかすかな柔らかさが滲んでいた。
研磨はそんな二人を横から眺めながら、胸の奥で息をついた。
(さっきのは気のせいだ。)
黒尾はいつも仁美を見ていた。
彼の視線の先には、ずっと仁美がいた。