【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
そう言い返すと、黒尾は得意げに笑った。
研磨は無言でスマホを取り出して、画面をなぞっている。
どうせゲームの話でもしているんだろう。
でも、それでいい。
この空気が、仁美はとても好きだった。
「……なあ、進学先。みんな、どこ行くんだっけ。」
黒尾がふと、歩きながら言った。
夏の光が少しずつ薄れていく。
仁美は小さく息を吐いて答える。
「私は都内。文系の学部に行く予定。」
「俺はまだ決めてないけど、多分理系。都内の大学。」
研磨は迷いもなく言った。
ずっと前から決めていたかのような口調だった。
黒尾が「へえ」と小さく相槌を打つ。
「俺は……東京だけど、二人とは違うとこだな。」
ほんの一瞬、風が止んだ気がした。
3人でいつも同じ方向を見ていたのに、これからはそれぞれの道を歩く。
当たり前のことなのに、胸の奥が少しだけざわめいた。
「みんな、バラバラだね。」
仁美の声は、自分でも驚くほど静かだった。
黒尾も研磨も、すぐには何も言わなかった。