【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
黒尾の最後の部活の日。
体育館を出ると、外の空気は少しひんやりとしていた。
熱気と汗に包まれていた中とは違い、外は不思議なほど静かで、心臓の鼓動までよく聞こえるような気がした。
「はー、終わったな。」
黒尾が大きく伸びをして、まるで引退なんてなかったみたいに軽い声を出した。
いつもと同じ調子。でも、その声の奥にはほんの少しだけ掠れた色が混ざっている。
長く続けてきた部活の終わりを、ちゃんと分かっている声だった。
「あー…終わった終わったー…。」
軽く笑って、空を仰ぐ。
オレンジ色に染まる空が、黒尾の横顔をきれいに切り取った。
黒尾はきっと、誰よりも強がる。
誰にも“終わり”を見せないまま、先に歩き出すタイプだ。
「……俺、明日からずっとゲームしよう。」
研磨がぽつりと呟いた。
「いや、おまえはまだ一年あるから!!」
研磨の言葉に黒尾が咄嗟に突っ込む。
それはまるで緊張の糸が切れたあとの子どものようで、仁美は思わず笑いそうになった。