【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第3章 When It Hurts to Love
その一瞬、研磨の手がぴくりと反応した。
まるでその涙が合図になったみたいに––––––。
彼は迷いもなく、仁美に顔を近づけた。
「……っ!」
視界の端にあった外の世界が、すべて遠のいていく。
イヤフォンの向こうでは邦楽が鳴っているのに、心臓の音がそれさえも上書きしていくようだった。
唇が触れた瞬間、世界が静まり返った。
それは劇的でも、派手でもなく–––––。
ただ、とても静かで、閉じた空間の中で溶け合うようなキスだった。
仁美は目を閉じる。
涙の余韻が唇の端に残っていて、それを研磨がそっと受け止めるように重ねてくる。
外ではまだ、黒尾の声がどこかに残っているはずだった。
でも今、この体育倉庫の中には、仁美と研磨しかいなかった。
時間の流れさえ止まったような感覚。
初めてのキスは、痛みと静けさに包まれていた。