【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第3章 When It Hurts to Love
仁美は震えた手で口元を隠した。
いつもの余裕のある調子じゃない。
息を吸い込んで、必死に何かを言葉にしようとしている音。
(なんで……クロが……)
女の子の小さな返事が、風に溶けて途切れた。
そのすぐあと、黒尾の声がはっきりとした形で、仁美の耳に突き刺さった。
「……好きだ。」
その一言には、軽さなんて一つもなかった。
胸の奥を、鋭くえぐるような真剣さがあった。
仁美の全身がびくりと震える。
外の気配は、黒尾が言葉を絞り出すように、何度も何度も伝えようとしているのがわかる気配だった。
途切れる声、息を呑む音、間の取り方–––
そのすべてが、「本気」だった。
頭の中で音が反響する。
“黒尾”と“好きだ”が同じ文の中にあるだけで、胸の奥がギュッと、痛いほどに締めつけられる。
誰に、なんてもう聞かなくてもわかる。
人目のない校舎裏に、女の子と二人きりでいる理由。
考えた瞬間、息が詰まった。
声が、遠くなる。
鼓動の音ばかりがうるさい。