【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第1章 Prologue
猫なんかじゃない。最初から彼の視線は仁美にだけ向いていた。
小さな背中。光に透ける髪。土の匂いと夕焼けの風。
その全部が、妙に胸の奥をざわつかせる。
理由は分からなかった。
ただ、その一瞬だけ、世界の中で仁美だけが鮮やかに浮かび上がって見えた。
研磨は、その背中から目を離せなかった。
黒尾も隣で、同じように黙って立っていた。
猫を見ていたのは仁美だけ。
仁美を見ていたのは、研磨と黒尾だった。
–––––この夕方の光景が、研磨の一番古い記憶になった。
川の音と、濡れた土の匂いと、仁美の後ろ姿。
そして、隣に立つ黒尾の沈黙もまた、静かに心に刻まれていた。
この日、まだ誰も知らなかった。
三人の関係が、いつか“形を失う恋”に変わっていくことを。