【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第13章 Beyond the Broken Line
仁美は少しだけ肩を揺らし、手が止まった。
研磨は何事もないふうに立ち上がって廊下へ向かう。
けれど、玄関の向こうから聞こえた声に、仁美の心臓が一瞬止まる。
「よー、研磨。」
聞き慣れすぎた声。
それなのに懐かしい声。
もう一つの足音が、研磨とともにリビングへ近づいてくる。
そしてドアが開くと、黒尾が立っていた。
背は相変わらず高く、少し大人びた表情をしているのに、仁美を見つけた瞬間の笑顔だけは、あの頃と寸分変わらなかった。
「おー。仁美も久しぶり。」
その声に、仁美はほんの一瞬だけ瞬きをした。
胸の奥がざわついたが、それを押し込めて、同じように笑って言葉を返す。
「……うん。久しぶり、クロ。」
それだけで、三年間ずっと張り詰めていた何かが、ふっと緩むのが分かった。
黒尾の柔らかい笑顔も、仁美の返した微笑みも──。
互いに、空白だった3年間をそっと埋めていくようだった。