【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第13章 Beyond the Broken Line
夏の匂いが濃く漂う昼下がり。
まだ引っ越したばかりの研磨の一軒家は、段ボールが積み上がったまま、生活の息吹よりも移動直後の空気が支配していた。
玄関のチャイムが鳴った時、研磨は配達員だと思った。
ドアを開けて、ほんの一瞬だけ呼吸が止まる。
そこに立っていたのは三年前と同じ面影で、だけど確かに大人になった仁美だった。
「……研磨。」
名前を呼ばれた瞬間、研磨の胸の奥で、押し込めていた何かがゆっくりほどけていく。
「久しぶり。」
それしか言えなかった。
でも声は驚くほど柔らかく、どこかほっとしていた。
仁美は照れたように目を細める。
「髪……伸びたね、研磨。」
玄関の光に照らされた研磨の髪は、昔より黒髪の部分が長くなっていた。
研磨は視線をゆっくりと仁美に合わせた。
「ああ。……仁美こそ、髪、短くなった。似合ってる。」
仁美は少しだけ視線をそらし、頬が熱を帯びる。