【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第12章 Triangular Midnight
「……その顔、何?」
まどかが低く言った。
黒尾はようやく顔を上げたが、視線は彼女を通り過ぎ、どこか遠くを見ているようだった。
「あー……悪い。早く旦那さん呼びなよ。俺、すぐ戻らなきゃいけないとこあるんだ。」
笑顔のまま、心ここにあらずの言葉だった。
まどかはその笑顔の意味を、残酷なほど理解してしまった。
──私を心配して来たんじゃない。
──“ついで”でもない。
──これは義務感ですらない。
まどかはもう“必要”じゃない。
優越感も、所有欲も、慰め合いの甘さも全部、仁美 に書き換えられてしまった。
黒尾にとって まどか は、仁美との仲を深めるために揺さぶられた“当て馬”でしかなくなっていた。
まどかの顔が、期待から落胆へ変わる。
黒尾はわざと気づかないふりをした。
彼の心はすでに仁美でいっぱいだったから。
泣きながら「行かないで」と縋ってきた 仁美 の表情。