【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第11章 The Night I Chose You
黒尾は苦しそうに唇を噛んだ。
手が震えている。
足も動かない。
だけど、目だけが病院の方向を見ていた。
──その目を見て、仁美 は理解した。
黒尾は最悪の決断をした。
懇願する 仁美 に、「必ず戻るから」とだけ言い残して、部屋を出て行った。
仁美 はもう……何も言わなかった。
閉まる扉の音。
遠のく足音。
そのすべてを聞きながら、仁美 の頬には静かに涙が落ちていく。
二人で買った小さなケーキだけが、まだ部屋のテーブルの上に、虚しく、置き去りにされていた。
黒尾の影が消えた部屋の中で、幸せの象徴だった甘いはずのそのケーキは、とても苦いものにしか見えなかった。