【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第11章 The Night I Chose You
その手には、ぶかぶかの指輪。
薬指で泳ぐその指輪を見た瞬間、胸の内で点と点が繋がる。
あの日の文化祭。
「一緒に回ろう」と言ったのに、黒尾は急に姿を消した。
──ああ、この人なんだ。
仁美は理解した。
彼女が黒尾が、好きになった人なんだ。
すべてが線になって、胸に刺さっていた曖昧な痛みの正体が、静かに見えてくる。
その間も、黒尾の手は仁美の手を離そうとするように、でも離した瞬間に後悔するみたいに握り返す。
その優柔不断さを見たら、自分はきっと絶望すると思っていた。
でも。
でも──違った。
胸の奥から湧き上がった感情は、悲しみでも嫉妬でもない。
もっとまっすぐで、もっと強いものだった。
仁美は、黒尾の手を強く握り返した。
驚いた黒尾がこちらを見る。
その瞳には怯えと迷いが混じっていて、まるで“捨てられる側の子供”みたいに震えていた。
仁美は女性から目を逸らさずに、静かに言った。