【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第11章 The Night I Chose You
そんな言葉を交わすたび、黒尾の胸は満たされていく。
自分でも驚くほど、穏やかで、幸せで、優しい気持ち。
甘いチョコレート店の前で、黒尾は仁美に似合いそうなお菓子を手に取ったり、仁美はそれを照れながら受け取ったり。
「クロ、そんなに買わなくていいのに。」
「楽しいんだからいいの。……俺が全部あげたい。」
そんな恋人らしい時間が続いた。
その帰り道。
住宅街へ向かうゆるい坂道を上がった時だった。
ゆっくりと歩いてきたひとりの女性とすれ違う。
黒尾が反射的に立ち止まる。
そしてまどかも、黒尾に気づいた瞬間、驚いたあと、ゆっくり微笑んだ。
その笑顔は、昔黒尾だけが知っていた“甘い顔”に限りなく近くて。
でもその奥には、どこまでも濁ったものが潜んでいた。
「……クロ?」
仁美が黒尾の隣で小さく呟く。
黒尾の指がぎゅッと仁美の手を締めつけた。
痛いほど強く、けれど震えている。
正面からゆっくり顔を上げ、目の前の女性を見つめる。