【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第8章 Unholy Devotion
その姿が、あまりに愛おしくて––––。
苦しかった。
(……そんな簡単に、俺を救うなよ。)
癒されるほど、離れられなくなる。
本当はもう手放さなくてはいけないと気付いているのに。
それなのに——
黒尾は願ってしまう。
仁美のぬくもりが、全部自分だけのものになればいい。
指先に残る温度を握りしめながら、黒尾はその衝動を喉の奥に押し込んだ。
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入試間近の三年生の校舎は、いつもの喧騒が嘘のように静かだった。
チャイムの音さえ、どこか重い。
特別授業の声、参考書の紙をめくる音、鉛筆の走る音が、張り詰めた空気に紛れていく。
昼休みでさえ、笑い声はほとんど無い。
黒尾はその隅で、推薦組とひっそり息を潜めていた。
騒げば、頑張っているやつらの集中を削ぐ。
空気を読むくらいは当然だ。
けれど——
視線だけは、隠せない。
机に黙々と参考書を解く仁美を今日も、黒尾は追ってしまう。