【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第7章 Obsession
黒尾の指先が、仁美の手の甲に触れた。
ごく自然に–––
いつもそうしてきたみたいに。
その瞬間、黒尾は目を細めた。
いつもなら、仁美はこういうとき、視線を逸らして、顔を赤く染め、恥ずかしそうに俯いてしまう。
それが、黒尾にはたまらなく愛しくて、その仕草を見るたび、自分の存在を確かめてきた。
だけど今の仁美は違った。
赤くなることも、俯くこともない。
まっすぐと黒尾を見て、柔らかい笑顔を浮かべている。
その笑顔からは、あのときの“好き”の温度がまるで感じられなかった。
胸の奥が、不意に冷たくなる。
その冷たさが喉の奥まで染みていく。
触れているはずなのに、何も返ってこない感覚。
まるで目の前の仁美が、自分の知らない誰かみたいだった。
黒尾は指先をそっと離した。
それでも視線は、仁美の笑顔に釘付けのままだった。
その笑顔が、静かに黒尾の胸を苛む。
仁美の心はもう、自分に向いていない。