【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第7章 Obsession
スマホのトーク画面に、研磨の名前が並んでいた。
研磨と2人のトーク画面。
《今日、研磨の部活終わるまで図書室で勉強してる》
《うん》
返ってきたのは、研磨らしい短い返事。
その淡々とした文字列が、仁美の胸に静かに落ちる。
黒尾と2人きりになることを避けるため––––。
自然な形で研磨の予定に合わせて動いている。
それが自分の選択だと、仁美はもう気づいていた。
朝の教室は、まだざわめき始める前の静けさに包まれていた。
扉を開けると、黒尾がいつものようにそこにいた。
軽やかな笑顔で「おはよ」と声をかけてくる黒尾に、仁美も同じように笑顔で「おはよう」と返す。
ただ、それだけ。
それだけなのに、以前のような胸の痛みはなかった。
席に向かいながら、仁美はふとワイシャツの襟元に手をやる。
生地の下、指先が昨夜研磨が残した歯型をなぞる。
少し前なら、黒尾を見つめるたび胸が苦しくなった。
けれど今は、何も痛くない。
むしろ、心の奥が静かに澄んでいくようだった。