第3章 依依恋恋 三話
「まあ言い得て妙といったところだが、あの男の本職は俺の世話人ではないぞ」
「えっ!?そうだったんですか……!?今日はご不在みたいでしたけど、そういう日もあるのかな、くらいにしか思ってませんでした」
「確かに少々甲斐甲斐しいくらいには俺の世話を焼いてこそいるが、週の大半は学舎(まなびや)の師をしている」
「学舎の師……?学校の先生って事ですか?」
「ああ、こちらでは予備校の講師と呼ぶのだったか」
「予備校の先生……!何だかちょっと意外です」
前世よろしく己の世話をすると申し出て来た光忠に対し、傍へ置く事を許可したのは光秀自身だ。既にその頃には作家としての印税や原稿料が入って来ていた為、世話役をする光忠へ給金を支払う事くらい光秀には造作もなかったのだが。ただこの屋敷で養われる身でいる訳にもいかないという事で大学の教育学部を卒業し、一応教員免許も取得している。現在は予備校で主に歴史と古文を子供達へ教える立場であり、生徒達からは【毒舌の光忠先生】、と恐れられているとの事だ。
「この屋敷内にはあの男の部屋もあるが、ここからそう遠くない場所に自らの居を構えている。先日は師の勤めが非番だった為、屋敷にいただけの事だ」
「なるほど……」
納得した様子で頷いた凪へ、光秀がああ、と相槌を打つ。彼女の皿を見れば、洋菓子は綺麗に平らげられていた。その様へ目元を和らげた光秀が、原稿用紙を中央から二つ折りにしてそれを改めて凪へ差し出す。
光秀が立てた大まかな作品のあらすじは、一度社に持ち帰られた上で会議にかけられる。読者層、全何巻に渡る展開を予定しているか、いつ頃の販売に合わせるかなど、多角的な観点から作品を精査し、その上で内容の押しが弱ければ修正を加える為に再び作家の元へ戻って来る。