第88章 淋しい夜〜冨岡義勇
朝食を終えても、空気はどこか重いままだった。
義勇は鎹鴉の寛三郎を呼び寄せ、無一郎たちの手がかりを探るよう命じて空へと放った。
「俺も街へ行く。聞き込みをしてくるつもりだ」
義勇が支度を始めると、ゆきはたまらずその羽織の袖を掴んだ。
「私も、行きます。一緒に探させてください」
潤んだ瞳で見つめるゆきに、義勇は足を止め、優しく頬に触れた。
「昨夜はあまり眠れなかっただろう。顔が疲れている」
「平気です。じっとしている方が、ずっと辛いから…」
一歩も引かないその頑なさに、義勇は小さく溜め息をつく。
すると、義勇は何の躊躇もなくゆきの体を軽々と抱き上げた。
驚きに目を見開くゆきを連れて向かったのは、義勇の部屋だった。
綺麗に整えられた寝床。そこへ、ゆきは静かに降ろされた。
「ここで休んでいろ。…時透は、必ず俺が連れ帰る」
「嫌です、一緒に行きます。」
なおも起き上がろうとするゆきの肩を、義勇の大きな手が優しく、押さえつけた。
そのまま義勇はゆっくりと顔を近づけ、唇が触れそうな、距離で動きを止める。
「どうしても行きたいか?」
今にも唇が、触れ合いそうな距離…
「ならば、この前のように口付けをしろ。そうしたら、連れて行ってやる」
それは、あまりにも甘く卑怯な取引だった。
自分を求めてほしいという義勇の気持ちと、無一郎を想うゆきの心を試すような言葉。
ゆきの瞳が揺れ、切なさに潤みはじめた。
けれど…
ゆきは震える唇を噛み締めると、力なく、ゆっくりと顔を横に背けた。
まさか…俺を、拒絶するのか?
「…お留守番、しています」
消え入りそうなゆきの声に、義勇はゆっくりと彼女から離れた。
「…そうか。では、行ってくる」
背を向けて部屋を出る義勇。
廊下に出た瞬間、やり場のない感情を押し殺すように手を握りしめた。
「行くと言うと、思ったんだが…」
共に連れて行く交換条件が、あまりにもズルすぎたかな…
義勇は、ふっと笑い歩き始めた…