第1章 現代
部屋の中は物音が全くしないほど静かで
私の荒い息しか耳に入ってこなかった。
ドクドク、と自分の心臓が大きな音を立て
母がいつもいるリビングに向かうと…
『……お、…おかあ…さ、…ん……』
…母は、目を開いたまま仰向けで
そして、血塗れの状態で部屋の倒れていた。
『っ、なん…で……、っ、…うっ…』
見るに耐えないほど全身が血塗れの母は
きっともう、すでに絶命している。
今更救急車を呼んだところで、もう手遅れだ。
部屋のあちこちに血が飛び散っているせいで
鉄の匂いが立ち込めているから
私は吐き気に襲われ、口元を抑えた。
『うっ…ぅ……』
母を殺したのは誰か…
その正体は何となく分かっているけど
自分が今、何をどうすればいいのか分からなくて…
『うっ……うわぁぁぁぁぉーーッ…!!!』
人生で初めて、こんな惨い場面を見た私は
床に顔を伏せ、大きな悲鳴を上げた。
母が死んだ…
でも、父が亡くなった時のように
涙は出なかった。
父が死んだと聞かされた時は
声が枯れるまでワンワンと泣き叫んでいたのに…
どのように表現すればいいのか分からないこの気持ちを、私はただ、声を張り上げて叫ぶ手段しかなかった。
何度も何度も…
私はパニック状態になりながら
ひたすら叫び続けていて、少し時間が経つと
この部屋にバタバタと人が駆け込んでくる足音がした。
…おそらく、隣の住人が異変に気付いて
警察を呼んだのだろう。
…その後のことは、あまり覚えていない。
私が覚えていることといえば
血塗れになった我が家の情景と、血が醸し出している嫌な鉄の匂いだけだった…。