第12章 甘く苦い距離
「あとねぇ…」
「ん?」
「彩さんと仲よさそうだったから…ちょっと寂しくなっちゃってた」
「クス…バカだな…気にすることじゃねぇよ。彼女はカメラマンなだけだ。それ以上でも以下でもない」
「…ん、解ってる…でも…」
「余計な事考えなくていい…ゆっくりと休む事だけ考えてろ」
「…加賀さん…」
キュッと指を絡めてすぅっと目を閉じる雅の様子を見ていた加賀は額に張り付く髪を避けてやりながらもそっと呟いていた。
「…お前が…雅がいてくれないと、俺は気が気じゃねぇよ…」
そっと顔を近付けてあと数センチの所で唇に重なることなくとどまるそれは、少しずらして額に落ちていった。
「…お休み」
眠りに入ったのを確認して加賀はそっと雅の部屋を後にするのだった。扉を閉めて顔を上げた時、新条と鉢合わせになった。
「加賀…」
「んぁ?あー、新条か…」
「そこって…」
「あぁ、雅の部屋だ」
「……いくら何でも…」
「いや、様子見ただけで今寝た。」
「……そうか…」
「悪かったな…今日は」
「何がだ?」
「いくら終わって解散の声がしたからってよ?」
「あそこでアンリと加賀が喧嘩してるとは思わなかったけどな?」
「喧嘩じゃねぇよ」
「・・加賀?」
「あいつ、『僕の…』って言ったんだ…雅の事…それでよ、なんか柄にもなくイラッとしただけっつぅかよ」
「…クスクス…加賀らしいな」
「は?」
「いや、お前も人間だったって事だ」
「……何言ってんだ、お前…」
「いや?とりあえず部屋、戻ろうぜ」
「…だな」
そうして隣り合った部屋にそれぞれ入っていった。