第12章 甘く苦い距離
「ねぇ、」
「……」
「ねぇってば」
「…あ?俺か?」
「そうだよ…」
つかつかとアンリが加賀に近づいていく。何かと思いながらも加賀はポケットに手を入れたままで近づくアンリを迎えた。
「…あんた…さっき送ってったんじゃないのか…」
「え?」
「だから!僕のとこの…」
「あぁ、雅ちゃんか…」
「そうだよ!そう聞いたのに、なんでこんなすぐ戻ってくんだよ。ちゃんと送ってないのか?!」
「送っていこうと思ったさ、でも本人にタクシーで行くからと言われてどうにも向こうも引かなくてな」
「だからって…!」
その騒ぎを聞きつけたAOIとスゴウ、そして他のチームメンバーも通りかかった。
「…もう黙ってろ」
「黙って?…だからって!」
「仕方ないだろ。本人の意見だ」
「心配じゃないのかよ!」
「…ハァ…話にならねぇ…」
「会話にしないのはあんたの方だろ!」
そう食って掛かるアンリをカシャン!…とフェンスに追い詰めれば加賀は上から見下ろした。
「…俺だって…あんな状態のあいつ一人にしておきたくねぇよ。でも仕方ねぇだろうが。これ以上は黙ってろ」
いうだけ言って加賀はゆっくりと離れ、今日子の元に向かっていった。
「…なんだよ…アレ…」
フェンスにもたれながらも去っていく加賀の背中を追っていくのだった。
***
その日の夜、ホテルの部屋のベッドに横たわっていた雅。少しだけ不安になりながらもメッセージを入れそうになる。
「…ッッ」
少しだけ戸惑いながらも加賀のアイコンをタップした。
『加賀さん、今日は、ありがとうです。』
時期に既読が付いて返信がシュポッと入ってきた。
『大丈夫か?』
『はい、多分…』
それが既読になって、そのあとの返事が入ってこなかった。