第12章 甘く苦い距離
二日後…予選第一日目が始まった。客席もいつも通り満席になって居た。ピット内にはざわつく声と、緊張感が入り混じっていた。
「第5ラウンド、か…」
「どうかした?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
ぽつりとつぶやいたその声がクレアに掬われるとは思ってもいなかった雅。ただ、視線の先にはモニターに映るアンリのガーランドを追っていた。
「…2位…か…」
「まだ暫定だな」
「そうですね…」
「アンリ?」
『はい』
「一旦戻ってこい」
『まだいけます!』
「いいから戻ってこい」
そうして修はアンリを呼び戻した。
「…少し休憩しろ」
「でも…」
「焦る必要はない。」
そう、上手くマシンが調子に乗らない中でいいタイムが出る訳でもないのは誰よりも解っていた修の判断だった。
「…ッッ出るはずなんだ…」
「アンリ…」
マシンから降りるアンリの表情はなんともつかみようがなかった。そんな中でハヤトをはじめ、グーデリアン、ランドルと走り出す。
「…やはりか…」
2位で出していたアンリのタイムはどんどんとぬかされ、電光掲示板の下位に追いやられていく。
「…現状で…5位…」
三人がアタックを三本終えた所でアンリは残りの二本を取りに向かう。しかしタイムは思うように伸びなかった。そして終了間際に加賀と新条が出て初日は結果、アンリは7位に落ち着くことになった。
そんな中でカメラマンの彩が加賀との距離を近づけていた。
「…あー…」
屈託なく笑う彼女のその表情は、誰が見ても解るもの。そう、加賀に恋している目だった。それを知ってか、知らずか…加賀の表情も柔らかく見えていた。
「…カメラマンだし…」
「何々?気になっちゃってる感じ?」
「あすかちゃん…」
「カメラマンでしょ?まぁ、彼女が加賀さんの事に好意を寄せてるのは一目瞭然だけど?」
「…だよね」
「…ってか…大丈夫?」
そうあすかが声をかけるのも仕方なかった。雅の顔が赤くなり、呼吸も少し浅くなっていた。
「…熱、あるんじゃない?」
「測れてない…や」
「ちょっと…待って?」