第12章 甘く苦い距離
急いで救急箱から体温計を持ってきて椅子に座らせるあすか。
「…どうかした?」
「雅ちゃん。熱あるかもしれない」
「え?」
「あ、でも大丈夫ですよ」
そして測り終えた体温計を見るなりあすかが怒り出した。
「なんで放っておくのよ!」
「なんでって言われても…」
「どうかしたのか…?」
ワラワラと集まってくるその中で椅子に座らされている雅を見てどうかしたのか…と皆心配そうだった。
「…38℃って…」
「うわぁ、マジか…」
「帰って寝ていろ。明日も来なくていい」
「でも…」
「まずは体調第一だろう。誰か行けそうか?」
そう話して居た。
ーーー・・・…
「どうかしたのかしら…」
隣のAOIのピットにも聞こえてくるほどだったため、そこにいた彩はちらりと加賀の顔を見る。
「さぁな…」
ふいっと顔を背けるものの、その視線はスゴウのピットに向いている。
「気になる?」
「…」
彩の声が聞こえているのかどうかわからないままに加賀は小さくため息を吐いた。
「…ふぅん…」
するっとその場を離れて彩はスゴウのピットに顔をのぞかせる。聞こえてきた声をそのまま加賀に伝えるべく戻れば加賀の眉がピクリと動く。
「…気になるの?」
「……」
返事をすることも無いままにガレージの奥へと向かっていくとクルーと一緒に帰ろうとする雅の姿を見かけた。
「…なぁ」
「え?」
「そいつ、俺が送る」
そう一言だけ告げて加賀は手を差し出した。
「…あの、でも…」
「大丈夫だよ、」
スゴウのクルーは加賀に任せて急いでピットに戻っていった。