第10章 さらけ出された感情
「んじゃ…」
そうして加賀は部屋の扉を開けた。
「…それか、他の所のがいいか?」
「いえ、すぐ…帰るので…」
そう返事をして雅は加賀の部屋に入っていった。
「ほら、どうぞ」
そういわれれば加賀は部屋に一つある椅子を雅に差し出した。
「…ありがとうございます。」
「それで?話って何?」
窓際に立ったまま壁にもたれて煙草に火を点けた加賀。フーっと細く紫煙が上がる。
「…私…」
「ん」
「この間バイク乗せてもらえて嬉しかったんです。無理しないでほしいってのも本当なんです…」
そう話しだす雅の言葉を遮ることも無いままに加賀は黙って聞いて居た。
「…それで、本当は嬉しくて…あんな遅くにでも誘い出してくれたこと…でも後から葵さんが探してたっていうのを聞いて…本当によかったのかなとか…確かに事故の後だったしって…」
「だからそれは大丈夫だって言ったろ」
「…そうなんですけど…」
「で、用件は?」
「好きなんです…まだ…病室でフラれてるのに…どうしても加賀さんじゃなくちゃだめで…だから…」
「…だから?」
「しっかりと、振ってください…なんとも思ってないなら、そうすれば迷惑もかけないで済みますし…きっと他のドライバーの方と同じように接すること、できると思うんです…」
そういうのが精いっぱいだった。しばしの沈黙が部屋の中に紫煙と絡み合う。
「…ハァ…」
小さなため息と同時に加賀は煙草の火をもみ消した。
「…一つだけ言って置く…」
「…はい…」
雅は加賀の横顔をじっと見つめていた。もう恐らく、この距離で見れるのは最後だと思うから…そう感じていた。