第9章 苦しくなる心とぶつかる本音
「待って…だって…!あと十分って…」
慌てた雅。それもそのはず。食事も終えてメイクすらも落とし、とはいえ、シャワーすらも浴びていない。そんな状態だった。
「…と、とりあえず…」
急いであすかのスマホに連絡をして、部屋を開けることを伝えた。当然既読はつかないが入れるだけは…と考えていた。着替えをして、髪も下ろしてしまっている。何より…
「すっぴんなんだが…?!」
今から化粧をしている時間はない。こんなことをしている間に時間だけが無情にも刻一刻と過ぎている。
「やばい…どうしよう!とりあえず…えっと、お財布とスマホと、カードキー…後は…ーーーッッもういいや…!」
リップだけ塗り、服を整えて急いでロビーに向かう。しかしそこにはまだ加賀は来ていなかった。
「よかった…」
喜んだのもつかの間、メッセージは入ってくる。
『駐車場で待ってる』
「来てるんじゃん…ッッ」
急いで雅はホテルの扉を出ていった。早る気持ちと、落ち着きたい気持ちが交差する。それでも心と体は正直だった。
「…い、た…」
大型のバイクにもたれたまま、夜空を見上げていた加賀がそこにいた。
「ごめんなさい…待たせちゃって…」
「いんや、俺も今さっきついたとこだ。」
「それと…あの…」
「とりあえず、コレ…」
そう言ってメットを一つ手渡される。
「…え?」
「ほら、」
視線の先にはすでにメットを被り、バイクにまたがっている加賀がいた。
「…ねぇ」
「行くぞ?」
そういわれてパス…とメットを被れば加賀の後ろにまたがる。
「…しっかりとつかまってろよ?」
「え?」
しかしメットに慣れていない雅はしっかりと加賀の言葉が聞き取れなかった。それを察したのだろう。加賀は服を握りしめる雅の手を取り自身の前に回した。
後ろを振り返ればはっきりと大きめの声で話し出す。
「振り落とされたくなかったら、しっかりとつかまってろ」
それだけを伝えてエンジンをかけた。