第1章 突然の別れと心
「ほら、今夜俺来る予定なかったんだろ?」
「それは…」
「まぁ、俺の事苦手なのはわかるけどよ?」
「え?…にが、て?」
「ん?違う?」
ふと歩みを止めてしまった雅を待つように数歩先にいった加賀は振り返って雅の顔を見た。
「ま、気ぃ使う事もねぇよ。だろ?」
「気を遣うとかじゃなくて…私…その…」
「ほら、遅くなるとまた怒られっぞ?」
そう言って再度背中を向けた加賀。少しだけ小走りで雅は加賀に近づいて横に並んで歩いていった。
「…あの、加賀さん…」
「ん?」
「本当に…私嫌とかじゃなくて…ッッ…ありがとうございます」
「ん?何がよ」
「送ってくれて…ここで大丈夫です。」
「そ?」
「はい。もうすぐそこですし…」
「そか…じゃぁまたな?明日、」
「え?」
「隣だろ?ガレージ」
「……あ、そか…」
「まぁ、ミキちゃんも明日の決勝終わったらAOIに来るから…またこうして飲むことあるかもしれねぇけど?」
ひらひらと手を振っていく加賀に、ありがとうございます、とぺこりと頭を下げた雅。苦しいほどに胸が詰まる。別れて振り返れば、加賀は耳にスマホを押し当てて誰かと話していた。
「…そか…仕方ない…」
番号、連絡先、…それらを聞くことも出来ないままに雅は小走りでホテルに戻っていく。
「…あ!帰ってきた!!」
「アンリ?」
フロント前のロビーで待っていたのだろう、アンリはタタっと走ってきた。
「…遅いじゃんか、こんな時間まで…」
「…ごめんね?」
「…ミキさんは?」
「まだ、」
「一緒じゃないの?」
「ん、新条さんと一緒になったから」
「ふぅん…それで一人で帰ってきたんだ…連絡くれてもよかったんじゃない?」
「それは出来ないよ。アンリも明日の決勝もあるんだし」
「…それとこれは話が違うでしょ」
ふいっと顔を背けながらも小さく『お帰り』と呟くアンリにただいまと小さく雅も返すのだった。