第6章 心を、止めて
「不満っていうか…」
キュッと唇をかむアンリ。
「前期に風見さんがアンリにしたことと同じこと。」
そう一言雅が言い放った時だ。アンリの肩の力がフッと抜けた。
「…あの時はあなたがグランプリを取るために風見さんが身を挺して守ってくれた。それを今度はあなたが風見さんにする番。解るでしょ?この意味」
「……ッッ」
「あなたになら風見さんと同じことができる。それに…」
「分かった…よ…」
雅の言葉にアンリは小さく頷いた。
「…そこまで言うなら…やるよ…」
「アンリ…?」
「その代わり隙があれば風見先輩相手でも抜いてもいいってことだよね?」
「そうだな」
そう言葉を発したのは修だった。
「…つまりは僕も、1位を狙うつもりで、それでいいんでしょ」
「あぁ。」
「そうは言っても前を走らせる気は俺も無いけどね?」
「風見先輩…」
「まずはテストランでしっかりとコンディション見てこい」
「はい」
そうしてアンリとハヤトはモニターを見つめながらもメットを手にしてマシンに乗り込む。
「…悪かったな」
「いえ、私に出来る事はアンリと正面から向き合う事位しか…出来ませんから」
「承諾させてくれて助かった。」
「いえ…」
そう話す雅の元にメカニックの一人がやってくる。
「…あの、雅さん…」
「あ、はい」
「少しだけ話良いでしょうか?」
「はい…?」
少しその場から離れて雅は着いて行く。
「…実は…」
そうして聞かされたのはアンリに対しての反抗的なスタッフの事だった。
「…それで…私に出来る事は?」
「いえ、話しておいてなんですが…特にしていただくことはない…というのが…ただそれがアンリさんの耳に入ったら…恐らく前の様になってしまうのではないかと不安で…」
「…わかりました。ありがとうございます。」
にこりと笑ってクルーに頭を下げた雅。