第38章 王者の来訪
「今、なんて言いました?」
「ぁあ!?」
「女がレースに首突っ込むなって言った?」
「それがなんだ!」
「クスクス…だっさ」
にこりと笑いながらも目は笑う事も無いままに雅は相手に食って掛かっていた。
「…雅…」
「フィルは黙ってて?」
「……グレイ…雅の目が怖い」
「まぁなぁ」
「ロベルトさんでしたっけ?」
「だったらなんだ!」
「こんな風に言って来る暇があるなら自身の走行データの収集、トレーニング、その他レースの研究でもしたらどうですか?」
「俺たちは前年チャンプですよ?!」
「だから何?」
「…ぁ?」
「まさか去年と同じで勝てると思ってるんですか?」
「…どういう意味だ!」
「いえ、別に?」
ふいっと顔を背け、加賀のメットをするっとひと撫でした雅。そんな雅の前に来るとドンっと肩を叩き押したかと思えば雅の体が少し揺れた。
「…あー、やっちまった」
メカニック三人の声がきれいにそろった。
「…このマシンだって違法だろうがって話だ!」
「触るんじゃねぇよ」
誰よりも真っ先に声を発したのは加賀だった。ぐっと肩を引き、雅を自身の半歩後ろに引かせれば加賀が口火を切った。
「これ以上俺の大事なもんに勝手に触れてくれんな」
「ぁ?」
「ロベルトっつったか?マシンの規定に関しては初戦を走ってる時点で違法がねぇのは解ってる事だ。それともなんだ?チャンプになればその検査ですらパスできるってのか?」
「んな訳ないだろ!」
「だったら条件は同じはずだ。」
「…ッッ」
「それにレーサーなら戦う場所はこっちじゃねぇ。そうだろ?」
「……・・行くぞ」
そう言ってロベルトはメカニックたちを引き連れてガレージを後にしていった。