第36章 パンドラの箱
「どうせまた会いたくなんよ!」
そう捨て台詞にも似た言葉を吐き出している翼に振り向きもしないままに二人は離れていくものの、空気は先ほどまでの物とは打って変わった重たいものに変わっていた。
「…ごめんなさい…」
「何が」
「せっかく楽しい時間って話してたところだったのに…」
「気にすんな。それより、帰るか…」
「…ッッ…ん」
やっとの思いで返事をした雅。その間も加賀が手を離さないでいてくれたことが唯一の救いだった。
家に帰ってくれば雅はソファに腰を下ろす。その横にコーヒーを入れた加賀が戻ってくれば雅の横に腰を下ろした。
「…あ、の。今日はごめんね?」
「ん?」
「せっかく時間作ってくれたのに…台無しにしちゃって…」
「それは別にいい。いろいろと合わなかっただけだろ」
「…そうなんだけど…」
しかしそれ以降会話が途切れる。
「…城…私…」
「それって話せる事?」
「え?」
「あいつに言われたからって無理に話そうとしてねぇかって聞いてる」
「…でも、黙ってるわけにはいかないもん…」
「…ハァ…なら聞く。」
そうして雅は緊張しながらも話し出した。
「…何から話したらいいのかなってのはあるんだけど…」
「…ん」
「私、その…」
しかしあと一歩という所で雅は言葉を詰まらせる。
「…今無理して話すことはねぇと思うけど?」
「…フルル…大丈夫…」
首を左右に振ればゆっくりと左手のリングを外した雅。その行動に加賀は驚いたものの、突っ込むこともしないままに話を待った。