第35章 嫉妬と甘い熱
「もし、AOIが撤退ってならなくてもよ、俺はハヤトに勝てたらやめるつもりだった。そりゃインディに戻るきっかけは確かにAOIが撤退するってのが根底にあった。でももし、AOIが撤退しなかったとしても、今の道は変わらない。」
「…城…」
「それによ、今日子さんの辞表提出もあの日、日本を発つ日に初めて知った事だ。恐らくは今日子さんの中では早くに決めてたんだろうけどよ?」
「…私、一緒に来たこと城は後悔してない?」
「するかよ。」
「…ッッ」
「それとも、雅は後悔してるか?俺と一緒に来たこと…」
「してない…今でもすごくうれしいし、来てよかったって思ってる。でも…葵さんの、気持ち…最後の顔…きっと城に残ってほしかったのかなって…そう思っちゃう自分がいて…」
「もしそうだとしても雅が気にすることはねぇよ。俺が決めたことだ。」
「…ん」
こつっと加賀の肩に凭れる様にしてせめて泣かない様に…と雅はただこぼれそうにもなる涙をこらえるほかなかった。
「…俺が決めて、インディに来た。今日子さんは日本に残って新しいドライバーを育てることを選んだ。雅は俺と一緒に来ることを選んだ。それぞれ自分で決めた道だ。もしあの時…とか、こうだったら…なんてのは予測でしかねぇよ。今、あの時に決めた決断を後悔してねぇならそれでいい。」
「…自分勝手だとしても?」
「どこが自分勝手なんだよ」
「だって…」
「もし、雅が俺と一緒に来たことを、あの最終レースでいくら頼んだのが今日子さんだからとてインカムで俺に話したことが自分勝手な判断だったなんて思ってんなら大きな間違いだ。」
そう言い切れば加賀はソファから降りて雅の前に膝をつくようにしゃがみ込めばそっと頬を撫でた。