第29章 初めてと、久しぶりの距離
そんな時だ。フロントの男性が四人の元に近づいて来る。
「…あの、お食事中すみません、」
「どうかしました?」
「実は皆様にお客様がいらしてまして…」
そう聞いた加賀とグレイは時計を見る。約束にはまだ三十分あったものの、示された方を見ればそこにいたのは間違いなくリックだった。
「…彼、食事はしないんだが、同席しても?」
「あ、はい。お食事されないのであれば…」
「分かった。」
「いい、グレイ、俺が行く。」
そう言って加賀は席を立つ。食事の手が止まる雅を見て、グレイはハハっと笑っていた。
「…大丈夫だって、んな緊張しなくても平気だ。雅」
「そうかもしれないけど…やっぱり…気になっちゃう…」
「んな緊張する必要ねぇよ、」
後ろから加賀の声がする。振り返ればその後ろには加賀にも引けを取らぬほどのイケメンが立っている。
「…え、っと…」
「初めまして、リック・ムーア。メカニックっす。よろしく。」
「あ、真坂雅です。よろしくお願いします。」
リックもまた、雅の指にはまるリングにすぐ気づいたものの、何も言う事も無いままに腰をかがめる。
「…そっか…、君が…」
そういうが早いか、リックはくいっと雅の顎を持ち上げて見ている間に頬にキスを落とす。
「…?!?!」
「これからもよろしく」
「いえ!あの…無理!」
「リック、てめ…」
「そう怒んなって、挨拶だろ?」
「要らねぇんだよ、その挨拶はよ」
「だって興味あるだろ。あんなにモテまくった奴のハート射止めた子なんてさ?」
「うるせぇ…」
「そうじゃね?グレイ」
「あんまり手、出してくれんなよ?リック。」
「はーいよ。お、そっちは…」
「あ、僕フィル・フリッツです。よろしく。」
「おー、言ってたメカニックか!よろしく!」
そうして一気ににぎやかになった食事の場だった。