第28章 幸せな時間
しかしポロポロと泣いて仕方のない雅の手からそっと箱を取り上げれば加賀は雅用のリングをそっと取り出した。
「どっちにはめる?」
「…ッッ…選べるの?」
「あぁ。」
「…ッ」
ゆっくりと左手を差し出した雅の手を掬い、薬指にはめた加賀。
「サイズは大丈夫そうだな…」
ほっと安堵の表情を浮かべた加賀。加賀の手のひらから上手く戻ることも出来ないままに雅はようやく涙も落ち着いてきた。
「…泣き止んだか?」
「…ん…」
「あー、その…結婚とか…そういうんじゃねぇ…ねぇんだけど…なんだ…」
「…いいの…ありがと…」
「それと…」
残ったもう片方を加賀は取り同じ指にはめた。
「…こっちは俺がもらう。」
「城君…」
「まぁ、なんていうかよ…これで少しは…声かけられることも減るだろうしな…」
「声…かけられても好きなのは城君だけだよ…?」
「そうかもしれねぇんだけど…や、俺が我慢できねぇんだよ…」
そういえばぐっと体を抱き寄せた加賀。
「本当なら、よ…ずっと俺の横にいてくれたらって思う。でもレースもあるし、そういうわけにはいかねぇだろ…だから…」
「じゃぁ、ずっと付けてていいって思ってもいい?」
「俺の事が嫌いになったり、体調でむくんだりって時には外して?」
「じゃぁ、ずっと付けてる」
そう答える雅。ゆっくりと体が離れれば極至近距離から唇が重なっていく。
「城君は、外してもいいよ?」
「ぁあ?」
「変な意味じゃなくて…レースの時ってグローブつけるでしょ?ぐっとハンドルも握らなきゃいけないし…もし邪魔になるならって思って…」
「そういう事か、まぁ、そうなって外しても付けてるけどな?」
「どうやって?」
照れくさそうにシャラっと取り出したのは雅が渡したネックレス。
「これにかけてりゃ一緒だろ」
「…ッッ」
今度は雅が恥ずかしくなりポスっと加賀の肩にもたれ込むのだった。