第26章 約束
「お疲れ様、アンリ」
「…呆れてるんでしょ」
「なんで?」
「リタイア…」
「呆れないよ。本当に、お疲れ様」
そういった雅の言葉を聞いてメットを手渡せば小さく応えるアンリ。
「…雅最後のレースに…リタイアで…ほんとごめん」
「…ん、でも走ってくれてありがと」
「怒ってくれてもいいのに」
「怒る意味はないよ。そうでしょ?」
そういわれたアンリはグッと目に溜まった涙をぬぐえば少しだけレーシングスーツのジップを下ろしてハヤトの走りを見守ることにするのだった。
走り続ける事どれくらいだろうか…グーデリアンやランドルも結果的にリタイアとなっていく。
「どっちが勝つか…だな…」
「どちらもリタイアはないでしょうから…」
「…そうだな…」
そう話しているスゴウピットの面々。あすかは祈る様にモニターを見つめているのだった。
***
レースも終盤となってきた時…両者ともに最後のピットインも終えた。
『スゴウの風見、AOIZIPの加賀!どちらも譲らぬ展開だ!風見が王者の走りを見せるのか…!それとも加賀が悲願のグランプリをつかみ取るのか!』
場内アナウンスでさえも両チームのクルーには聞こえてこない程にまで、緊迫した空気が漂っていた。
AOIのピットでは今日子が俯き始めている。
『うぁぁ!!』
ヘッドホンからは絶えず加賀の叫び声が聞こえだしていたのだ。もう恐らく限界なのかもしれない…そう今日子は思い出した。
「…加賀君…頑張って…ッッ!」
そう呟く願いにも似た声は加賀の耳には届くことはないままにラップ数だけが重なっていく。
「オーナー、このままでは…」
「解ってるわ…でも…加賀君が…戦ってるの…」
そう返答するしかできなかった今日子だった。