第25章 加賀の決断
するりと腰に腕を回せば顎を持ち上げる。
「…じょ、うくん…寝てないと…」
「大丈夫だって言ったろ…」
「でも…」
「薬…」
そう言って触れるだけのキスを落としていく。
「…薬って…」
「ん、俺にとってもだし、雅にとっても」
「…?」
「分かんねぇって顔だな」
「…ん」
そっと抱き寄せれば背中をさする様にして腕を回す加賀。鼓動に耳を押し付けて雅もまた加賀の背中に腕を回した。
「…俺は痛み止め、雅のは傷薬」
「…私どこもケガしてないし…」
「ちげぇよ」
「…え、っと…」
「俺はずっとそばにいる。俺が走るには雅がいてくれねぇと困るって言ってんだ」
少しだけゆっくりと、低く雅の耳に届いてきたその言葉。加賀の言う『傷薬』という意味がようやく分かった雅だった。
「…最高の特効薬…」
「ならよかった」
「ッッ…城君…」
「ん?」
「ありがと…」
「何言ってんだって、」
そういえばゆっくりと体を離す加賀。
「今日はもう帰るだろ?」
「ん…」
「また会えるさ」
「…じゃなきゃ困る…」
「そうだな…」
ゆっくりと離れ、名残惜しそうに雅は加賀の病室を後にした。その背中を見送った後、加賀は新条に連絡を入れる。
『遅くなって悪かった。今部屋出た』
『遅いだろ!』
『だから悪かったって』
『どうせお前が引き留めたんだろ、加賀…』
『さぁな』
それだけのやり取りでスマホを伏せる加賀。ベッドにもぐりこんで手のひらを天井にかざす。
「…守りたいもの、か」
そう呟いた声がひどく自身の耳に残ったまま夜を過ごすのだった。