第23章 過ぎていく疾走
「…城、くん」
少し戸惑い気味に部屋に入っていく。ふっと笑いながらも体を起こした状態でいた加賀は一つ深呼吸をしていた。
「…だせぇよな…こうして来てもらうの…二回目だし」
「ダサく、ないよ…」
「だせぇだろ…マシンに遊ばれて、結果的に気ぃ失ってクラッシュって…」
「…ッッ」
悔しさが声ににじんでいることを雅は気づいた。その次の瞬間にきゅっと手を握りしめていた。
「…無理に笑わなくていい…」
「…雅」
「ダサくない…そんな事よりも…生きててくれてよかった…」
「……」
「何も特別な事じゃないって…そう思ってたのに…生きててくれないと…城君が生きててくれないと…ッッ」
そう続ける雅の声が少しずつ涙声になってくる。そんな相手の頭をふわりと撫でた加賀はゆっくりと頭を抱き寄せる。
「…雅のが泣いてんじゃねぇかよ」
「そんなことない…泣いてない…」
「嘘つけ…」
「ほんとだも…ッッ」
「クス…」
少しだけ空気が和らいだ加賀。それでも最後のレースに向けての調整もあるとはいえ、時期に退院の運びになる事を雅に伝えるのだった。
「…でも…!」
「もし何か不調があっても大丈夫だ。最終戦…日本だし」
「…そうかもしれないけど…」
「心配はいらねぇよ。大丈夫。」
そっと離れてクシャりと髪をなでる加賀の手に少しだけ目を細める雅。
「…日本に戻ったら、スゴウには悪いけど、勝たせてもらう」
「…ん」
「それで、一緒にアメリカ、行くんだろ?」
「…ッッ」
「寝てる暇ねぇんだよ。許しもらいに行かねぇといけねぇんだし。」
「…許しって…」
「ん、雅の親御さんによ」
そう話しだした加賀にこつりと凭れれば雅は小さく首を左右に振った。