第8章 4枚の婚姻状
天元は仁美の部屋の前で小さく息を吸った。
部屋の中には仁美の気配がある。
しかし、もう日はかなり上がっており、仁美が起きている事は無いと分かる。
屋敷の厨房では使用人達が残った隊士達に朝食の用意をしているのだろう。
離れにある仁美の部屋の周りに人の気配は無い。
天元は迷っていた。
このまま会わずに屋敷を離れるか。
それとも最後に仁美の顔を見てから離れるのか。
仁美と会っても天元は彼女が何を言うかもう分かっている。
そしてそれは到底自分は受け入れられない事も。
仁美は最後には自分に縋ってくる。
どんなに残酷な言葉と一緒にいわれるのか。
そんな事を考えているだけで、襖を開ける手が止まるのだった。
だけど、それがどんなに受け入れ難い提案でも。
天元はきっとそれを受け入れる。
それが仁美の最後の頼みなら尚更だ。
結局天元はその襖を自分から開いたのだった。
陽の光があまり入らない薄暗い部屋。
鬼の様に生きていた仁美のそのままの姿に思えた。